獣医師推奨:皮膚病治療における薬浴・スキンケアの効果と正しい方法

「皮膚病の治療には、飲み薬や塗り薬だけで十分なのでは?」 「シャンプーはただ体をきれいにするだけでしょう?」

そう思われている飼い主様もいらっしゃるかもしれません。しかし、犬や猫の皮膚病治療において、「薬浴(やくよく)」と呼ばれる薬用シャンプーを用いた洗浄と、その後の「スキンケア(保湿など)」は、獣医師が強く推奨する非常に重要な治療法の一つです。

近年、多くの動物病院でスキンケアの重要性が認識され、内服薬だけに頼らない、より体に優しく効果的な治療アプローチとして積極的に取り入れられています。

ここでは、なぜ薬浴とスキンケアが皮膚病治療に効果的なのか、そしてその正しい方法について、獣医師が詳しく解説します。

なぜ「洗う(薬浴)」ことが治療になるの?その効果とは

薬用シャンプーを用いた薬浴は、単に体を清潔にするだけでなく、皮膚病の治療において様々な重要な役割を果たします。

  • 汚れや刺激物の除去: 皮膚表面に付着したホコリ、花粉などのアレルゲン、余分な皮脂、フケ、かさぶたなどを物理的に洗い流し、皮膚を清潔な状態にします。
  • 原因菌・酵母の除去: 膿皮症の原因となる細菌や、マラセチア皮膚炎の原因となるマラセチア(酵母様真菌)を殺菌・洗浄し、その数を減らします。
  • 薬剤の直接浸透: シャンプーに含まれる抗菌成分、抗真菌成分、抗炎症成分、保湿成分などを、患部の皮膚に直接届け、効果を発揮させます。
  • かゆみの軽減: 皮膚を清潔にし、炎症を抑えることで、ペットを苦しめるかゆみを和らげる効果が期待できます。
  • 皮膚バリア機能のサポート: 皮膚の状態に合ったシャンプーや保湿剤を使うことで、ダメージを受けた皮膚のバリア機能を補い、外部からの刺激を受けにくくします。

このように、薬浴は皮膚病の原因に直接アプローチし、皮膚環境を整えることで、他の治療薬の効果を高める相乗効果も期待できるのです。

効果を最大限に!正しい薬浴(シャンプー)の方法

せっかく薬用シャンプーを使っても、方法が間違っていては十分な効果が得られません。以下のステップを参考に、正しく行いましょう。

  1. 準備: 
    • ブラッシング: シャンプー前にもつれ毛をほぐし、抜け毛を取り除いておくと、シャンプー剤が皮膚まで届きやすくなります。
    • 場所と温度: 滑りにくい場所を選び、お湯の温度はぬるま湯(35℃前後)が基本です。熱すぎるお湯は皮膚を刺激し、かゆみを悪化させることがあります。
  2. 予洗い: シャワーで全身を十分に濡らし、表面の大きな汚れを洗い流します。この予洗いだけでも、汚れの多くは落ちます。
  3. シャンプー(洗い): 
    • シャンプー剤: 必ず獣医師に指示された薬用シャンプーを使用してください。症状や皮膚の状態によって適切なものが異なります。
    • 泡立て: シャンプー剤を直接体にかけるのではなく、手やスポンジでよく泡立ててから、その泡で優しく洗います。泡立てることで、皮膚への刺激を減らし、洗浄効果を高めます。
    • 洗い方: 指の腹を使って、皮膚をマッサージするように優しく洗います。ゴシゴシ擦ると皮膚を傷つける可能性があるので注意しましょう。顔周りは特に慎重に、目にシャンプー剤が入らないよう気を付けましょう。
    • 放置時間: シャンプー剤によっては、有効成分を浸透させるために泡をつけたまま数分間(通常5〜10分程度)置く必要があります。必ず獣医師の指示に従ってください。この間、ペットが体を冷やさないように注意しましょう。
  4. すすぎ: ここが非常に重要です! シャンプー剤が皮膚に残っていると、かえって皮膚炎の原因になることがあります。泡が完全になくなるまで、ぬるま湯で時間をかけて、全身を丁寧にすすぎます。特に脇の下、指の間、お腹などはすすぎ残しやすいので注意が必要です。
  5. 乾燥: 
    • タオルドライ: 吸水性の良いタオルで、ゴシゴシ擦らずに優しく押さえるように水分を拭き取ります。
    • ドライヤー: ドライヤーを使う場合は、必ず冷風または低温設定にし、皮膚から30cm以上離して、一箇所に熱風が集中しないように乾かします。

忘れないで!「潤す(保湿)」スキンケアの重要性

シャンプー後は、汚れと共に皮膚を守る皮脂も洗い流されるため、皮膚が乾燥しやすくなります。乾燥は皮膚のバリア機能低下を招き、かゆみや炎症を悪化させる原因にもなります。そのため、シャンプー後の保湿は、薬浴とセットで考えるべき重要なスキンケアです。

  • 目的: 皮膚に水分と油分を補給し、失われた皮脂膜の代わりとなって皮膚のバリア機能をサポートします。
  • 保湿剤の種類: ローションタイプ、スプレータイプ、クリームタイプなど様々な製品があります。ベタつきが気になる場合はローションやスプレー、特に乾燥がひどい場合はクリームなど、皮膚の状態や使いやすさに合わせて、獣医師が適切なものを選びます。
  • 使い方: シャンプー後にかけ流したり、タオルドライ後やドライヤーで乾かした後、毛をかき分けて皮膚に直接塗布したり、スプレーしたりします。全身に塗布するのが理想ですが、難しい場合は特に乾燥しやすい部分や症状のある部分に重点的に行いましょう。

獣医師の指導のもと、正しいケアを

薬浴やスキンケアは、皮膚病治療において非常に有効な手段ですが、その効果は「皮膚の状態に合った製品を、正しい方法で、適切な頻度で行う」ことにかかっています。

  • シャンプー・保湿剤の選択: 皮膚の状態(乾燥しているか、ベタついているか、感染があるかなど)や原因疾患によって、使用すべき製品は全く異なります。自己判断で市販の製品を使用すると、症状を悪化させる可能性もあります。必ず獣医師の診察を受け、処方された、あるいは推奨された製品を使用してください。
  • 頻度: 薬浴の頻度も、症状や使用するシャンプーの種類によって異なります(例:治療中は週1〜2回、維持期は月1〜2回など)。獣医師の指示に従いましょう。
  • プロのケア: 自宅でのシャンプーが難しい場合や、より専門的なケアが必要な場合は、動物病院併設のトリミングサロンなどで、獣医師の指示のもとトリマーによる薬浴やスキンケアを受けることも有効です。当院でも、トリマーと連携した専門的なケアを提供しておりますので、お気軽にご相談ください。

まとめ

薬浴とスキンケアは、単なる「体を洗う」「保湿する」という行為ではなく、皮膚病と闘うための積極的な治療の一部です。内服薬や外用薬と組み合わせることで、より早く、より効果的に症状を改善し、再発を予防することにも繋がります。

皮膚のトラブルでお悩みの際は、治療としての薬浴・スキンケアについて、ぜひ当院にご相談ください。ペットの皮膚の状態を正確に診断し、最適なシャンプー剤や保湿剤の選択、そしてご自宅でできる正しいケアの方法を、丁寧に指導させていただきます。

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