犬アトピー性皮膚炎:原因・症状・最新治療法を獣医師が解説
犬アトピー性皮膚炎は、多くのワンちゃん(W.テリアやラブラドール.レトリバーなどに多いとされていますが、日本で診察をしていると柴犬やT. プードル、フレンチブルドッグなどの犬種を治療することが多いです)を悩ませる皮膚の病気です。かゆみを伴い、掻き続けることで皮膚の状態が悪化してしまうことも少なくありません。大切な愛犬が辛い思いをしている姿を見るのは、飼い主様にとっても大変心苦しいことでしょう。
ここでは、犬アトピー性皮膚炎について、その原因、主な症状、そして最新の治療法について、獣医師が分かりやすく解説します。
犬アトピー性皮膚炎の主な原因
アトピー性皮膚炎は、単一の原因ではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
遺伝的な素因: 特定の犬種で発症しやすいことから、遺伝的な要因が関与していると考えられています。生まれつき皮膚のバリア機能が弱かったり、アレルギー反応を起こしやすい体質を持っている可能性があります。
環境中のアレルゲン: ハウスダストマイト(室内のダニ)、花粉、カビなど、環境中に存在するアレルゲンに対する過剰な免疫反応が、皮膚の炎症とかゆみを引き起こします。
皮膚バリア機能の低下: 皮膚の最も外側にある角質層は、外部からの刺激やアレルゲンの侵入を防ぎ、皮膚内部の水分を保つ「バリア」の役割を担っています。アトピー性皮膚炎の犬では、このバリア機能が低下していることが多く、アレルゲンが侵入しやすくなったり、皮膚の乾燥が症状を悪化させる一因となります。
こんな症状はありませんか?犬アトピー性皮膚炎のサイン
最も特徴的な症状は「かゆみ」です。以下のようなサインが見られたら、アトピー性皮膚炎の可能性があります。
- 体を掻く、舐める、噛む: 特に顔(目の周り、口の周り)、耳、脇の下、お腹、足先などをしきりに気にする様子が見られます。
- 皮膚の赤み: かゆい部分の皮膚が赤くなっています。
- 脱毛・毛が薄くなる: 掻いたり舐めたりすることで毛が抜け、皮膚が見えてしまうことがあります。
- 皮膚の肥厚・色素沈着: 慢性化すると、皮膚がゴワゴワと厚くなったり、黒ずんだりすることがあります。
- フケ・かさぶた: 皮膚の乾燥や炎症により、フケが多くなったり、かさぶたができたりします。
- 外耳炎: 耳の中も皮膚の一部であり、アトピー性皮膚炎の犬は外耳炎を併発しやすい傾向があります。耳を痒がったり、頭を振ったり、耳垢が増えたり、臭いがしたりします。
- 二次感染: 皮膚のバリア機能が低下し、掻き壊すことで、皮膚の常在菌である細菌やマラセチア(酵母様真菌)が増殖しやすくなり、膿皮症やマラセチア皮膚炎といった二次感染を起こすことがあります。二次感染により、さらにかゆみが強くなったり、ベタつきや特有の臭いがします。
犬アトピー性皮膚炎の診断
他の皮膚病の可能性を除外して診断を行う「除外診断」が基本となります。
- 問診: 症状が始まった時期、かゆみの程度や部位、食事内容、生活環境、過去の治療歴などを詳しくお伺いします。
- 身体検査・皮膚検査: 全身の皮膚の状態、脱毛や赤みのパターン、二次感染の有無などを詳しく観察します。必要に応じて、皮膚表面の細菌やマラセチア、寄生虫を調べる検査(皮膚掻爬検査、細胞診など)を行います。
- 除外診断: まず、ノミ・ダニなどの寄生虫感染、膿皮症やマラセチア皮膚炎などの感染症、食物アレルギーなど、似たような症状を引き起こす他の病気の可能性を、検査や治療への反応を見ながら一つずつ除外していきます。
- アレルギー検査(補助的): 原因となっている可能性のあるアレルゲンを特定するために、血液検査を行うこともありますが、これらの検査結果だけでアトピー性皮膚炎と診断することはできません。あくまで診断の補助や、治療方針を決定する上での参考情報として活用します。
進化する犬アトピー性皮膚炎の治療法
アトピー性皮膚炎は、残念ながら完治が難しい慢性的な病気ですが、適切な治療とケアによって、かゆみや皮膚症状をコントロールし、ワンちゃんと飼い主様の生活の質(QOL)を大きく改善することができます。当院では、画一的な治療ではなく、一頭一頭の症状や体質、ライフスタイルに合わせた、多角的なアプローチを重視しています。
かゆみと炎症を抑える治療(内服薬・注射薬)
分子標的薬
近年、かゆみの信号伝達をピンポイントでブロックする新しいタイプの薬剤(例:アポキル錠/チュアブル、ゼンレリア錠、サイトポイント注射)が登場し、従来のステロイド剤や免疫抑制剤と比較して副作用のリスクを抑えながら、効果的にかゆみを管理できるようになりました。
抗ヒスタミン薬、ステロイド、免疫抑制剤: 症状の重症度や他の治療法との兼ね合いを考慮しながら、これらの薬剤を適切に使用します。ステロイド剤は炎症や痒みが強い時に使用しますが、長期使用による副作用に注意が必要です。
免疫療法(アレルゲン特異的免疫療法): 原因アレルゲンが特定できている場合に、そのアレルゲンを少量ずつ定期的に投与することで、体のアレルギー反応を徐々に慣らしていく治療法です。根本的な体質改善を目指す治療法であり、長期的な効果が期待できますが、効果が現れるまでに時間がかかります。
スキンケア(薬用シャンプー・保湿)
低下した皮膚バリア機能を補い、皮膚表面のアレルゲンや細菌・マラセチアを除去するために、低刺激シャンプーや薬用シャンプーを用いた洗浄と、その後の保湿が非常に重要です。皮膚の状態に合ったシャンプー剤や保湿剤の選択、正しい洗い方・保湿方法を指導します。当院では、トリマーと連携した専門的な薬浴ケアも提供可能です。
食事療法
食物アレルギーが関与している場合や、皮膚の健康維持に役立つ栄養素(オメガ3・6脂肪酸など)を補給するために、療法食やサプリメントを用いることがあります。獣医師の指導のもと、適切な食事管理を行うことが大切です。
二次感染の治療
細菌やマラセチアによる二次感染が見られる場合は、抗菌薬や抗真菌薬(シャンプーや外用薬、内服薬)による治療を並行して行います。
アトピー性皮膚炎は、通常生涯にわたる付き合いが必要な病気で、症状が良い時期と悪い時期を繰り返すこともあります。そのため、定期的な診察を通じて皮膚の状態を評価し、その時々の状態に合わせて治療法を調整していくことが非常に重要です。
まとめ
愛犬のかゆみや皮膚トラブルにお悩みの場合は、自己判断せずに、ぜひ一度当院にご相談ください。丁寧な診察と検査に基づき、アトピー性皮膚炎かどうかを正確に診断し、それぞれのワンちゃんに最適な治療プランをご提案いたします。
皮膚科診療の経験豊富な獣医師が、飼い主様とワンちゃんの負担を少しでも軽減できるよう、最新の知見に基づいた治療と、日々のケアについて丁寧にアドバイスさせていただきます。「どこの病院に行ってもなかなか良くならない」「薬だけに頼らない治療法も考えたい」といったお悩みにも、親身に対応いたします。
まずはお気軽にお問い合わせいただき、ご予約の上ご来院ください。